隠居生活☆東京・マニラ行ったり来たり

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2007年 07月 31日

THE ORCHIDARIUM (その2)

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蘭園の入口
入場料、忘れた。
確か15ペソくらいだったと思う。
まあ、気にならない金額ってことよ。

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蘭園の散歩道にて①

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蘭園の散歩道にて②




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バタフライ・パビリオンで。
オヤジ達に告ぐ!
夜、ネオン街に棲息する蝶もそれはそれで魅力的だけれど、ここのも見たらいかがかと。
余計なお世話かい。ハハハ。

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接写の技術が全くなっていないなあ。自覚はしている。
今後の課題さ。


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蝶の種類など、全然わからねえ。
佐太郎、虫の方は全く興味がないんだ。


都会の真ん中で、ちょっとしたジャングル気分が味わえるよ。
どれが蘭で、どれが蘭でないかも、全くわからなかった。
蘭の世界は奥深いらしい。ど素人がわかるわけないよな。
率直な感想。見学者には不親切な植物園だ。
もっとも、蘭について本気で知ろうとするひとなんてごくわずかなんだろうけどね。
素人に対しては素人を喜ばせる展示の仕方ってあるよな。
でも、何度も言うけど、デートには向いているぜ。

てなわけで、以下は説明なしなのだ。いや、説明できないのだ。
雰囲気だけ、味わってくれい。

密かにフィリピンの家のベランダで蘭を育ててみようとは思ってはいるんだけど・・・・

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ところで、蘭の花言葉って知っているかい。
ハハハ、常識だぜ。
彼女にしたい素敵な女の子ができたら、この蘭園に連れていくのも良いんじゃないかな。
澄みきった紺碧の空。目を和ませる緑と色鮮やかな花々。近くの喧騒が嘘のような静寂の空間。
二人っきりで庭園を歩くとロマンチックだ。
きっと、何かが起こるぜ。

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最近、老いの慰みというやつでミステリー仕立てのラブ・ストーリーを書きたくなっているんだ。
趣味としては最高だぜ。
日曜大工、日曜画家があるんなら、日曜作家ってのも面白いよな。
金がかからない。頭を使うからボケない。気持ちを若く保てそう。
死ぬまでに、3年くらいかけて一作、書いてみようかな。
生活のために書くんじゃないから、ゆっくりペースでやってみるか。
出来上がる前にこの世にサイナラしたら、未完の大作ということにしておいてくんろ。ハハハ。
そろそろ、人物設定と構想を練り始めようと思っている。

てなわけで、ちと創作練習。


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・・・・・・・・・・・・・
ロハス・ブルバードをはさんでアメリカ大使館に対面したところにスターバックス・カフェがある。
旅行者風情の欧米人。韓国語を話す若いグループ。こざっぱりした服装だが少し危険な雰囲気を漂わせるフィリピン人の男女。店内は八分通り埋まっている。昼下がりにしてはなかなかの盛況。
午後3時。隆志は約束の時間にお店に入った。
驚いたことにコーラはすでに座っていた。備え付けの新聞に所在なげに眼を通している。嘘だろう、フィリピーナが待ち合わせに約束通り来ているなんて。
好意的に言えば時間の制約から解き放たれている悠長で鷹揚な気質、悪く言えば時間にルーズでノウテンキな気質がそうさせるのか、それとも、フィリピーナ特有の見栄がそうさせるのかわからないが、1時間くらい待たされるのが普通だった。時間を守るというそんな当然のことに、隆志の中で予感が走った。ときめきを感じた。今日は何かが起こるぞ。
ゆっくりとした時間の流れを基調とする異空間の文化を劣っていると軽率に判断するほど、隆志は無知な愛国者でも厚顔な文明人でもない。
「待った?」
「いえ、少しだけ」
「君って変わっているね。フィリピーナを待たせたのは始めてだよ。今日は記念すべき日だ」
「あら、あたし、時間をあんまり気にしなかっただけなの。よくあることよ。不満なの? じゃあ、今度はたっぷり待たせてあげるわ」
「いや、そいつは結構。願い下げだな。お腹すいてる? 外で何か食べるかい」
「いいえ、食べたばかりなの。すいてないわ」
「じゃあ、お願いがあるんだけど・・・」
「えっ、なあに」
「ちょっと暑いけど、外を散歩しないかい。リサール・パークって、まだ行ったことがないんだ。ガイド代、払ってもいいんだぜ」
「よくってよ。私を観光ガイドとして使おうなんて勇気あるじゃない。すご~く高いわよ。でも、あなた、優しいから、今日はただにしてあげる。スペシャル・サービスよ」
「あんがと。涙が出てくるよ」

人と駐車中の車で混雑するロハス・ブルバードの側道を北に歩き、カラウ・アーべニューを横切るとそこはもうリサール・パーク。リサール記念像の前では、群れをなして韓国か台湾の観光客が写真を撮っている。これは好機とばかり、隆志もポケットからデジカメを取り出す。
「一枚、撮っていいだろう。君の美しい顔を東京でも眺めていたいんだ」
「あら、写真がないと私のこと思い出せないのね」
「俺って、想像力にと乏しいんだ。寝る前には、写真を眺めては君のことに思いを馳せるんだ。いいだろ」
「本当ね」
「にっこり笑わなくていいよ。君の自然の表情を撮りたいんだ」
「何よ。じゃあ、思いっきりきつい顔をしてあげる」
カメラを見据えてくるまじめくさった顔も微笑ましい。

漆黒の潤んだ大きな目、形のいい少し上向きの鼻、きりっとしながらも今にも笑みのこぼれ落ちそうな口元。
夜の薄暗い照明の下での美しい整った顔には魅了されていた。が、時折、ふとした表情の奥に、悲しみ、頼りなさ、脆さといったものが渾然と入り混じった翳りを垣間見る。何時まで眺めていても見あきなかった。
この女をもっと知りたい。白日の下で素顔を見たいという欲求にかられていた。で、神秘ののベールを剥がしてやるんだと意気込んで、半ば強引にこうして外に連れ出してきたのだ。
美形には変わりなかった。が、思った以上に色黒で健康的に見える。
あら隠しのできない太陽光の下でも美しいということは、どこにいても美しいんだろう。血管に血流がどっと流れるのを感じた。

夜とは確かに印象が違う。性格の明るさと人柄の良さが伝わってくる。
昼の光は神秘の女の妖艶さを弱めはしたが、現実の女の逞しさをクローズアップした。
隆志は惚れ直した。俺が求め続けたのこの女だ。俺が今まで独身でいたのもこの女のためだ。
確信した。もう躊躇うものは何もない。どんなことをしても、この女を手に入れるんだ。

リサール記念像の左の道を通り、公園の中ほどにある芝生の広場を進む。
暑い。ギラギラと陽光が照りつける陽光の中を歩いている人はほとんどいない。
たちまち、汗が噴き出てくる。
「ごめんね。こんなところ、歩かせちゃって。はい、ハンカチ」
「ありがとう。気がきくのね」
首と額を拭って、返したきた濡れたハンカチを鼻先にもっていき、クンクン嗅ぐ。
「うわっ。たまんねえ。いい匂い。卒倒しそうだ。ビニール袋に入れて日本に持って帰ろうかな」
「ばあか。エロいのね」
「そうさ、思いっきりエロいんだぜ。がっかりした?」
「フン、男なんて皆エロいわよ」
澄み切った青空。吹き渡る風にたなびく色とりどりの旗。ピンクや白の美しい花の咲き乱れる水辺。
二人して冗談を言い、顔を見合わせ見合わせ歩くと、ぎこちなさもすっかり消え、打ち解けた心になる。
太陽が半端でなく照り付けている日中は当然のことながらベンチに腰掛けている人はいない。
「こんな素敵な陽光が降り注いでいるのに、誰も浴びようとしないなんて、日本では考えられないな」
「好き好んで色黒になろうなんてするフィリピン人はいないわ」
「東京では、日焼けサロンというところで、お金払ってガングロになるんだぜ」
「ガングロって、なあに?」
「顔の色の黒いこと」
「じゃあ、あたしって、ガングロなの?」
「うーん、だよな。でも、日本のガングロよりはずっと上等で品がある」

コーラにさりげなく手を出すと、躊躇することもなく、握ってくる。血管の中で血が沸騰する。
女の子と最後にこんな風に散歩したのは何時だったか、思い出せなかった。

公園中央のマリア・オロッサ・ストリートを渡ると、右手にラプラプ像が遠望され、左手の煉瓦造りの門の上方に「THE OCHIDARIUM」と書かれている。
「ここ蘭園だよね。蘭の花って10万種以上あるんだってね。色鮮やかで造形がユニーク。華麗でかつ繊細。素晴らしい香り。友達に蘭中毒がいてね。自分でランチュウと言っているんだけど、はまったらやめられないそうだ。入ってみない?」
「そうね。あたし、よく知らないけど・・・ いいわよ」
入場券を買い、入口から続く花のアーケードの下を進む。
庭園の小さな滝の前に来る。
「オーキッドの花言葉って、知っている?」
「いいえ、知らないわ」
「君みたいだね」
「えっ、何なの?」
「蘭の花言葉は美女だそうだよ」
「あら、嫌だわ」
「感じていてくれたと思うけど、僕は君が好きだ。好きだ。好きだ。死ぬほど好きだ。この突き抜ける青い空くらい君が好きだ」
平凡な言葉でも、繰り返しは女の子を喜ばせる。
「うれしいわ」
「君は蘭の化身だ。美しくて良い匂いがする。僕は完全に蘭中毒、いや、君に中毒になってしまったようだ。もう君なしでは生きられないできるなら、このままずっと僕のそばいてくれたらなあと思っているんだけど・・・・。僕じゃ、嫌かなあ」
「そんなこと、な・・」
顔を赤くしているコーラを、背骨が折れそうなくらい抱きしめてルージュの剥げかかった乾いた唇に軽くキスをする。
「俺、カレッサのように、目の周りに覆いを作り、他の女には見向きもせずに、君を乗せて突っ走るよ」
「あら、本当?」
「目隠しなんか必要ないか。他の女性なんか君に比べたら、しおれた花さ。道端の名もない雑草さ」
「あら、まあ」
「ねえ、二人で僕達の物語を作っていかないか。最高の特別の愛の物語をね」
「うふっ、反対なんてできないわ」

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・・・・・・・・
滝の前を離れ、昂揚した心のまま再びゆっくり歩き出す。
丈の短いファッショナブルなデザインの薄紫のTシャツにジーンズ生地のホットパンツ。肌のあらわに出ている、コーラの腰に手を回す。はちきれるような弾力と適度に湿ったぬくもりが官能を刺激する。スキンシップは心の距離を近づける。
シダの垂れ下がったなだらかな小道を高ぶった心で上りながら、隆志は心の中で冷静になることを呼びかける。またしても予感がうごめく。俺はこういう状況で失敗することが多い。落ち着け、落ち着け。
坂道を上り切ったところにバタフライ・パビリオンがある。入口にはドアがなく、鉄の細い鎖が十数本、暖簾のように地上20センチメートルあたりまで垂れ下がっているだけで、外気と室内の空気を遮断するものはなのもない。蝶を外に逃さないためには鎖の暖簾でけで十分らしい。
中は少しむっとして温室のように感じられる。足元には水が流れ、咲きそろった小さな花の周りを小型の蝶が群れ飛んでいる。
「ね、ねえ、隆志、蝶々のこと、フィリピノ語でなんて言うか、知っている?」
「いや、知らないな」
「パルパロと言うのよ。それからね。女好きのプレイ・ボーイもパルパロって言うのよ。花から花へ美味しい蜜を求めて遊びまわるからかしら。私の元彼、皆パルパロだったの。ハンサムで若い男達だったから仕方なかったのかもしれない。けど、それにしても、私って、つくづく男運がないのよ。好きになった男は例外なくパロパロ。捨てられる軽い女を演じてばかり・・・でも、私って独占欲が強くプライドが高いの。最初に好きになってつきあった男、刺したのよ。他の女といちゃついている彼を許せなかった。気がついたら刺していたわ」
「うっ、怖いなあ」
「私はフィリピーナ。プライドは高くてよ。フフフ、覚悟しておいてね。私、パルパロ、もう絶対に許さないから。裏切ったら殺すわよ」
眼が笑っていない。背筋を戦慄が走った。同時に、何故か快感も。人間の感情って複雑だ。一筋縄でいかない。理屈で説明できない部分がある。
「君のためなら死んでもいい。いや、君になら殺されてもいいぜ。カマキリのメスは交尾の後にオスを生きたまま喰うらしいね。君に喰われて本望さ」
正直な気持ちだった。惚れ切った女になら殺されてもいい。刺されると考えるとゾクッと身震いがする。気づかなかったけれど、俺って究極のマゾヒストなのかもしれない。隆志はぼんやりと考えていた。

「日本では、君のように夜のお店で働く女性のことを夜の蝶と言うんだぜ。君こそ男達の間を華麗に飛び回るパルパロじゃないのか」
外部と内部を分け隔てるノレン状の鎖に思いはせ、ある考えに行き着いた。
コーラを自分の手元から絶対に逃したくない。それにはがっちりと隙間なく遮断するドアよりも鎖を垂らしておく方がよさそうだな。俺は今まで女性を完全に支配しようとして失敗してきたような気がする。

前に立つコーラの後れ毛から醸し出すほのかな香水の匂いと熟し始めた女の匂い。
くらっとした。たまらない。もう君のためならなんでもするぜ。
コーラはむきになってしゃべり始める。
「そうよ。私はパルパロ。蝶々よ。夜だけじゃなく、昼間も自由に飛び回るの。自由よ。私、誰の物にもならないわ。私を束縛しようと思ったら大間違いよ」
振り向くと、手をヒラヒラさせて、辺りを走り回っている。子供みたいだ。20歳を過ぎた女のやることか。
蝶の写真を撮ろうとしていた隆志はあっけに取られてしまった。
成熟と幼児性の混在。そのアンバランスがなんとも面白い。
さっきまでつまらなそうだった。でも、今はいたずらっぽい笑みを浮かべて夢中に飛び回っている。。こんな顔もするんだ。また少し彼女のことを知ったような気がした。お店の顔とは違う。さらに心の距離が近づいている。対等な男と女として向かい合っているような気がした。

パビリオンの中は丈の高い草むらになっていて小道が迷路のように入り組んでいる。
いつのまにかコーラは茂みの向こうに消えていた。しばらくして草むらのおくのでしのび笑いが聞こえる。
今度は隠れんぼか。よ~し、遊んでやろう。なんだか遠い子供の頃に返ったようで、と素直な気持ちになる。
あわてふためいてやろう。
「コーラ、コーラ、どこだよう。君がいないとさびしいよう」
見通しのいいところでじっと待つことにする。やがて動いてくるさ。
いた。いた。単純だ。すぐに動いてくる。後ずさりしてくる身体を後ろからいきなり抱きすくめる。
左手で下腹部を押さえ、右手で口を押さえる。
「声を出すな。静かにしていれば、命は助けてやる」
「うっ、く、苦しいわ。やめてえ。ゴメン・・許してえ」
「俺の言うとおりすれば、許してやるさ」
右手で顎を後ろにむけ、強引に唇を奪う。
「ムムム・・、バカあ、苦しいってば」
言葉とは裏腹に背中に回った手に力が込められ、舌を吸い寄せてくる。
情熱的だ。可愛い。こいつのキスはなんて気持ちがいいんだ。隆志は恍惚となる。

後ろから腰を抱くと、タイタニックの映画の姿勢で、体重をあずけ手をバタバタ扇ぐ。
蝶の真似か。お尻が敏感な部分にあたる。下の方を突き抜ける熱い衝動。
ムラっとする。刺激的。たまらないぜ。まずい、まずい。真昼の公共の場でのうずき。
理性がなんとかほてりを抑える。
「飛ぶわ、飛ぶわ。私は未来へ向かって自由に飛びつづけるわ。あなたは疲れ切った私の帰る所。それでも良い?」
よし、コーラの休憩の場、拠り所になってやろう。
果てないながらも、うっとりとするような余韻。

陽も翳ってきた。
「お腹、すいてきたな」
「そうね。すいてきたわ」
蘭園中央に位置するレストラン「BARBARA」に入る。
★赤ワインを傾ける。コーラの目の周りがほんのりと染まっている。テーブルの下で彼女の手にそっと手をおく。
「僕の計画を少し話してもいいかい?」
「ええ、な~に?」
コーラの手をきつく握り、
「近い将来、僕達の間に君にそっくりなオーキッドベービーを作りたいんだ」
「まあ、そんな、あたし・・」
「女の子が生まれたら、その子に蘭(ラン)って名前をつけるのが僕の夢になったんだ」
彼女も握りかえしてくる。
「不思議だわ。私も同じような気持ちだったの。その夢、協力しちゃおうかなあ」

「あなたって、タフで、激しくて、情熱的で、とても頼りがいがある。好きだわ」
彼女、顔を赤くしている。ワインのせいばかりではない。昨夜の情熱的な出来事を思い出したらしい。
「あなたの顔って、野性的で、個性的で、とても素敵。私、とても好きよ。でも、ハンサムじゃないわ。女の子、あなたに似ているかもしれないわね。どうする?」
「そうか。そういうケースもあるか。想定外だな。うーん。そのときもやっぱしランでいくよ。日本語の漢字は少し違うんだけど、乱という字でね。
ちょっと乱れちゃったものな。大きくなったら、きっと男共を狂わせるぞ」
「よくわからないわ。ねえ、で、男の子が生まれたら、どうするの?」
「そうか。そういうケースもあるか。想定外だな。そうだなあ。蘭丸にしようか。美少年になるぞ。でも、なんだかホモになりそうだなあ。まあ、いいっか、僕は進んでいるんだ。そんなことに差別意識は持ってないんだぜ」
隆志は、ワインの酔いではない酔いで、頭はボッとしているのに、口が勝手に滑らかに回ってしまう。

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・・・・・・・・・・・
午後8時を回った。
レストランの外はもうとっぷり日が暮れている。
蘭園を出ると、左手にライトアップされたラプラプの像が木々の間に屹立している。来た道をゆっくりと引き返す。人通りはまだ昼間とさほど変わりがない。
が、気のせいか、コーラが身を硬くしているのが、絡めた汗ばんだ指の間からから伝わってくる。
ジープニーが行き交うマリア・オロッサを渡る。明るく灯を燈した売店が道路に沿って並んでいる。広がった芝生の上は薄暗がりで、恋人達が囁きあいハグしキスしている気配が感じられる。
突然、コーラが歩みを止めた。外灯の薄明かりの下で、隆志の手を堅く握ったまま、向き合ってじっと眼を見つめてくる。訴えかけるような表情。意を決したように口が開く。
「さっきのお話、とてもうれしかったわ。でも・・・、私、言っておかなければならないことがあるの」
「なんだい。怖いな」
向けていた視線を下に落とす。魅力的な長いまつげがかすかに震えている。
「実は、私、3歳の女の子がいるの。ジーナって言うのよ」
「・・・・・・」
きた。覚悟はしていた。
魅力的なフィリピン女性なら二十歳前後で子供が一人くらいいるのは珍しくもなんともない。
コーラの漂う色香。男を扱いなれた所作。男を十分に知っているのはわかっていた。ひときわ目立つ憂いを含んだ大きな眼。彫りの深い整った容貌。出るところは出た引き締まったスレンダーな姿態。男共が黙って指を加えて見逃すはずがない。
ハイティーンでのハンサムな男との恋。そしてお定まりの結末。想定内だ。
「隠すつもりはなかったけれど、出会って早い時期に言うことでもないわよね。でも、もう言わないわけにはいか
ないわ。こんな私、受け入れられて?」
「う~ん、そうか。ちょっと心を整理したい。少しだけ時間をくれないか」
近くのベンチに腰をおろす。心は決まっていた。が、少しだけ考える振りだけはしなくては。
「父親って、どんな男? 一緒に暮らしているの? 今も一緒にいるなら、それはちょっと無理だな。君のためにもこれ以上深入りしたくない」
「私、男なんて選り取り見取りだったわ。ジーナの父親は最初に死ぬほど好きになって夢中になった男よ。そう、私が刺して一緒に死のうと思った男。ハンサムで背が高くて目が綺麗で優しくて女の子ならほっておけないタイプの男だった。私達、人も羨む、最高のカップルだったわ。ジーナを18歳で生んだの。でも、もうとっくに別れているの。どこにいるかもわからないわ。未練が全然ないと言えば嘘になるけれど、もう一緒になることは絶対にないわ。それくらい傷つけられたし憎んだの。向こうも私以上に私を恨んでいるわ」
「そうか。今の俺にはうれしいな」
「心の空白を埋めようと、その後、何人もの男、いや何十人もかな、とつきあったけれど、だめだったわ。荒れた生活を送っていたわ。今は、ジーナが生きがい。私の宝物。ジーナを受け入れてくれない男とはつきあえない。こういう私を受け入れられて?」
お金だけが目的なら、こんなことは言わないだろう。本気でつきあうつもりだから言い出したのだろう。相変わらず自分に都合よく解釈した。己の甘さを封印し、腰にまわした両手を強くひきつけて耳元に囁くように即答していた。
「君の子供は君の分身。君と同じように愛するのは当たり前だろう。ジーナっていう子に早く会いたいよ」
「よかった・・・・。ほっとしたわ」
薄暗くてよくわからないが、瞳が濡れているように感じられた。身体が小刻みに振動している。
ただうれしさだけではない何か他の感情に突き動かされているような気もした。

「いろいろ、あったの。半年前、ジーナをずっと面倒みてくれていた母が死んで、続いてすぐに、私を精神的に支えていてくれた一番上の姉が入院してしまったの。私、パニックになったわ。精神状態、ずっとおかしかったみたい」
「苦労したんだね」
「私の夢は、つつましいのよ。食べる物と住むところがあり、愛する好きな人達と仲良く暮らすことなの」
「俺の夢も、凡なる幸せ。大きな成功なんか求めていない。平和で温かな日常生活。君と同じじゃないかな。気が合うじゃないか」

彼女こそ待ち続けた伴侶だ。具象化された希望だ。
明るい前向きな性格、穏やかでのんびりとした物腰。存在そのものが癒し。
そのためなら、どんな代償を払ってもいいさ。
傾き掛けた人生で見つけた宝石。
神様がお与えてくださった奇跡。大切に守るさ。
私が望んでいたものをすべて持っている。
彼女となら、うまくやっていけそう。
根拠はないが確信はある。

後は怖れることなく突き進むだけ。自分の未来は自分で面白く作り上げるのさ。

見上げれば満天の星。二人して歩く前方に浮かびあがる電飾されたマニラホテル。その右上に満月が怪しく輝いている。
潤いのある日々はすぐそこにある。人生のターニング・ポイント。我が最良の日。
隆志は感動した。頬を伝わる涙は心地よく隠そうとも思わなかった。
男はロマンチスト。涙がよく似合う。

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by wakahiroo | 2007-07-31 18:25 | ○マラテ迷宮案内


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